◆そういえば、Armが開催したイベントArm Everywhereにて、独自開発のArm AGI CPUが発表されたとの記事が出ている。ArmがCPUを出すことについては、2024年5月に開発計画が発表されて、2025年2月に開発が進んでいることが報道されていたと思う。25年内か25年度内に出るのではないかとのことだったと思うが、年度内には間に合ったようだ。アーキテクチャやIPのライセンス販売と並行して、チップ自体も販売するというのは、少し珍しいかもしれない。x86はインテルとAMDが作っているが、ライセンスは販売していない。RISC-VやSPARCはオープンライセンスで管理団体があり、自ら作ることはしていないと思う。IBMのPowerアーキテクチャは、IBMでチップ開発してはいるが、オープンライセンスに移行してLinux Foundationに移管したと思う。
発表されたチップは、2チップレット構成で、Arm Neoverse V3コアで136コアと書かれている。チップの画像はCGなので実物ではないことはわかったうえで数えると、120コアのようだ。V3コアの上下の両端に10個ずつ計20個のコアのような模様があり、これもV3コアだとすると計140コアで、4コアが冗長用と考えられる。また、120個のコアの方は2個単位でペアになっているように見える。これで思い出したのは、NVIDIAのVeraのチップ画像(これもCGだと思うが)で、Veraもコア2つがペアになっている。Arm AGI CPUはVeraと同じメッシュネットワークを使っているのかもしれない。ただし、そうすると両端の20個のコアのようなものは、メッシュネットワークから独立しているようにも見える。これはV3コア(Poseidon)ではなく、N3コア(Hermes)ではないかと推測する記事もあるようだ。そうすると「136個のV3コア」ではなくなるが、いずれにせよイメージ図なので、あまり深く考えないことにしたい。
2つのチップレットの間がつながっているかどうかは、発表されている情報からはわからなかったが、基板の色からすると、おそらくNVIDIA Blackwellと同じくCoWoS-Lではないかと思われる。CoWoS-Lは有機基板で、配線幅がシリコンインターポーザ―(無印のCoWoS)より太くなるが、チップ間の下にLocal Si Interconnect(LSI)という接続部品が入っているので、CoWoSと同等の配線密度でチップ間を接続出来ると思われる。2つのチップレットの向かい合った側はL3キャッシュメモリと思われ、合計で128MBとなる。紹介動画でソケットに78 X 73 MMと書いてあるのがソケットのサイズだとすると、チップサイズは2cm x 3cmくらいになると思われ、600mm2越えていると思われる。3cmは、製造限界に近い。TSMC N3Pプロセスで製造されているが、DDR5やPCIeも含めて同じチップを回転対象で2つ並べた構成となっており、部品点数が少ないのはサプライチェーンのリスクが減るのでメリットかと思う。
サーバーとしての供給は、AsRockが基板を開発し、Supermicroが販売するようだ。ラックとしても準備しており、OCPラックに準拠する。1CPU300Wで空冷が可能、2CPUを1Uにしたブレードを30段組みこんだ空冷ラックと、8CPUの1Uブレードを42段組込んだ水冷ラックがある。空冷ラックは36kWだが、水冷ラックは200kWとなっている。NVIDIAのVera Rubin NVL72ラック(水冷)やAMD Heliosラック(水冷)と遜色ない電力となっている。
最初の顧客はMetaで、2024年の開発開始から共同で取り組んでいるとの情報が出ている。Metaは、自社製のAIチップであるMTIA400シリーズを先日発表したが、そのCPUとしてArm AGI CPUを使うとのこと。他にもOpenAIやCerebrasなどが初期顧客となるらしい。Armからの発表では、52社からのエンドースメント(支持するコメント)が出ている点が印象的であった。製造や開発をサポートするファブやASIC開発やCADと、OSやプラットフォームに加えて、競合するArm CPUを開発するAWSなどのクラウドサービスプロバイダー(CSP)と、Veraが競合するNVIDIAからもエンドースメントが出ている。ライバルとなるx86のインテルやAMD、おそらくマーケットがかぶらないAppleやQualcomからは出ていなかった。(Qualcommはかつての訴訟相手でもあるが…)
Arm Everywhereというイベント名が示すとおり、組込みからスパコンまでArmアーキテクチャのCPU/MPUは広がっており、そこにArm社自身がハイエンドCPUを持って入ってきた形となっている。分野がすこしずれるが、TSMCは自社チップは顧客と競合になるので作らないと言っているし、顧客と競合するインテル(ファウンドリ)は顧客がなかなかつかない状況であることを考えると、ライセンスの顧客とは競合しないこと示すための、52のエンドースメントであるように思われる。とはいえ、アーキテクチャライセンスを売りながら競合製品を製造するというのは、しばし注目ではあると思う。
次にちょっと話題が変わるが、GPUの密輸出関連。Supermicro社員による中国への迂回輸出事件が、NVIDIAに飛び火しているようだ。米国ホワイトハウスがNVIDIA GPU の中国向け輸出許可を出すにあたって、NVIDIA(ジェンスン・フアン)が、GPUシステムはこっそり持ち出せるほど小さくないので密輸出は不可能だと説明していたことが、許諾の判断根拠のひとつになっていたらしい。どうもGBラックシステム(重量2トン)が念頭にあったと思われる。実際には密輸出されたのはGPUサーバーでGBラックよりはずいぶん小さい。CEOからすると、GPUサーバーは眼中になかったのかもしれない。
中国つながりでもうひとつ。アリババが次世代AIチップを発表したようだ。玄鉄C950というチップで、RISC-Vアーキテクチャとみられている。TSMC 5nmプロセスを使うらしい。中国企業のAIチップがTSMCで製造できるのか、よくわからないがどうなのだろうか。2022年ごろに、BIRENという中国のファブレスによるGPUをTSMCが7nmで製造していたが、アメリカの横やりで製造中止になったと記憶している。2024年には、Huaweiに迂回して供給していた中国メーカーが米国に摘発されて、TSMCが7nm以降のAIチップは供給しないと全中国メーカーに通達したと思う。