◆そういえば、インテル元CEO・パット・ゲルシンガーの談話が出ている。半導体分野の投資とリターンは長期計画に基づくものとなるため短期的な利益は見込めない性質がある。しかし、経営者はウォール街の投資家から短期的な利益を求めるプレッシャーにさらされて失敗してしまう、という内容のようだ。ゲルシンガー氏がCEOに就任した当初、5N4Yという方針が出て度肝を抜かれたが、その反面、ほんとうに達成できるのか疑問に思ったことを覚えている。5Nとは半導体プロセスノードで、5つのノードを開発するということである。4Yとは2021年からの4年間ということで、2021年から2025年の4年間で、5つのプロセスノードを開発するという計画であった。
当初の5Nは、具体的にはINTEL7, INTEL4, INTEL3, Intel 20A, Intel 18Aの5つであった。最初のINTEL7の次の世代は、7に0.7を掛けて5になるところだが、ハーフピッチ進めてINTEL4となっている。4の次は同様に0.7を掛けてINTEL3、3の次は2(intel 20A)、その次はIntel 14Aとなるところだがハーフピッチ戻して18Aとしたと思われる。1.5世代+1世代+1世代+0.5世代で4世代となる。INTEL7は実態としては10nm Super Finで、10nm相当と言われている。TSMCは2017年に10nmを達成しているのでインテルとしてはだいぶ遅れており、ロードマップの2017年に10nm、2019年に7nm、2021年に5nm、2023年に3nm、2025年に2nmというペースに追いつく必要があった。そこで、2021年に10nmから始めて、4年間で18Aまで進めてTSMCを追い抜く構想があったと思われる。
さて、2025年が終わって2026年現在、ゲルシンガー氏はCEOを退任してしまったが、Intel 20Aはキャンセルしたものの、INTEL7でXeon5、INTEL4でMeteor Lake、INTEL3でXeon6、Intel 18AでPanther Lakeを製造した。18Aは2026年1月6日発表だが、TSMCの2nmは2025年12月30日に量産開始なので、1週間しか違わない。ゲルシンガー氏のころ、インテルのイベントのたびに、キャッチコピーのように"Moore's Law Still Alive"と繰り返していたのが、個人的に気に入っていた。2023年にGordon Moore博士が亡くなったが、あのキャッチコピーが耳に届いていたのだろうかと思うと、少し胸が熱くなる思いがする。
一方、昨日、現在のインテルのCEO・リップ・ブー・タンのインタビュー記事が、出ていた。スタートアップへの投資を継続するという内容で、インテルの投資部門について、スピンオフする考えはないことを表明したようだ。コーポレート・ベンチャーは企業の目と耳のようなものだと述べている。新しいテクノロジ―を活用した新しい企業への投資は、リターンを求めるものというよりは、採用や設備投資を行わない研究開発の延長とみているのかもしれない。就任以来、インテルがばらばらにならないように、いろいろ繋ぎとめるような決断が多い気がする。ゲルシンガー氏の意志を継いでおられると思う
次にNVIDIAの話題。NVIDIAのジェンスン・フアンCEOが、TSMCとの間には契約書がないと述べた、という記事が出ている。無いわけないと思うのだが、どうやら、開発契約などの契約書にサインしたことは無く、頼んだことは必ずやり遂げてくれる、ということが言いたいようだ。つまり契約書が要らないほどの信頼関係と言いたいのではないかと思う。一般論だが、契約書が無くても依頼して応諾すれば、諾成契約(口約束)という契約関係になるので、書面は無いが何らかの情報は伝えているのだろう。
具体的な話は知る由も無いが、おそらくNVIDIAがGPUなどのチップの開発計画(仕様・希望納期・希望価格・投入時期など)を伝え、TSMCが応じられる範囲で技術的なチャレンジを設定するのではないかと想像する。そのときに、いわゆる開発委託計画書などは作成していないということかと思う。過去の製品を見ると、NVIDIAのGPUの半導体プロセスは少し違っていて、10nmが最先端のときに12nm(12FF)プロセスを使うなど、ハーフピッチほど緩くなっていることがあった。次期Feynmanも、A14ではなくA16である。TSMCも最先端でチャレンジではなく、すこしマージンをもって確実な線で答えているのではないかと思うが、どうなのだろうか。半導体プロセスが少しずれている理由が、なんとなくわかった気がした。
引き続きNVIDIA関連。NVIDIAが出資しているAIスタートアップにReflectionが注目を集めているようだ。NVIDIAはすでに8億ドルを出資しているらしい。Reflectionは西欧版DeepSeekと呼ばれており、現在はオープンウェイトモデルを開発中とのこと。1年前の企業価値は5.45億ドルとみられていたが、いまは200~250億ドルと言われている。今回資金調達で25億ドルの獲得をめざすと見られている。ただし、まだ収益を上げる成果には結びついておらず、韓国の新世界グループと提携して、LLMの韓国語カスタマイズを行うようだ。GPUリソースはNVIDIAが支援するらしい。
技術的な話から少しずれるが、NVIDIAに対して株主から集団訴訟が起きているようだ。2018年くらいに仮装通貨のマイニングが大流行して、GPUがゲーム市場ではなくマイニング業者に流れていった時期があったと思う。その時のNVIDIAが開示した売上げの内容がゲーム市場での売上となっていて、仮装通貨向けの売上として計上されていなかったようだ。ただし、2022年にこの件はSEC(証券取引委員会)から指摘を受けており、NVIDIAはおそらく6億ドル程度を計上し直して課徴金550万ドルをおさめている。しかし売上の実態は17億ドルほどと見られ、開示内容に10億ドル以上の乖離があるとして、集団訴訟に発展したようだ。
NVIDIAつながりでもうひとつ。マイクロソフトがAzure上で、NVIDIA Vera Rubin NVL72ラックAIシステムを用いて、ERPワークロードへの適用評価を始めたとの記事が出ている。ERPはEnterprise Resource Planningの略で、企業の基幹システムのことだが、いわゆる人事給与・会計システムのようなものだと思う。そういう分野にAIワークロードが入り始めたということは、AIエージェントが事務を始めるということかと思われる。時代が進んでいる気がする。
最後にGoogleの話題。GoogleのTPU v7 Ironwoodと、量子チップWillowについての記事が出ていた。Ironwoodは2026年内に310万から320万チップの出荷を見込んでいるとのこと。TPUラックとして統合され、1ラックあたり64TPUを搭載し、光回路スイッチで144ラックを接続することが出来る。全体で9,216TPUのシステムとなる。Metaは2027年にTPUをレンタルで導入するようだ。また、Willowチップは、特定のタスクで、従来のスーパーコンピュータより13,000倍高速に実行できるとしており、創薬や材料開発といった分野に向けた応用で期待されているらしい。Willowは超伝導量子ビットによる高速システムだが、Googleとしては中性原子量子コンピューティングにも拡大していくとしており、こちらはスケーラブルな構成をとることが可能となっているようだ。