◆そういえば、アマゾンのアンディ・ジャシーCEOの年次書簡が出ているようだ。アマゾン全社なので通販や物販の状況から始まるが、低軌道衛星Amazon Leoの展開状況の後に、AIとAWSへと話がシフトしていき、AWS関連が3分の2くらいを占めているようだ。AIとAWSの状況を6つの観点から述べているが、初めにAIについて説明している。その中で、発明王エジソンが電球を発明したときに、人々は「部屋を明るくするには(旧来のランプやロウソクに比べると)良い方法だ」としか思わなかったが、電気が産業や生活に普及して現在のように社会全体を変えることになるとは考えていなかったにちがいない、現在のAIはそういう位置にいる、と述べている。また、電気が世の中を変えるのには40年かかったが、AIの普及速度は、電気よりも10倍以上速いと見ているようだ。
AWSのチップ事業については、現状では自社使用に限られるため、事業としては200億ドル程度の売上高となっているが、今年生産したGravitonやTrainium、Nitroを外販した場合は、500億ドル程度の売り上げになると見ているとのこと。AWSがEC2で提供している計算能力を全て買いたいという申し出が2つの会社からあり、もちろん断ったが、自社チップへの需要が非常に強いことを確認したと述べているようだ。AIチップも、Trainium3の計算能力と18ヶ月先に稼働するTrainium4の計算能力まで、すでに予約が入っているらしい。将来的にはGravitonとTrainiumをラック単位で外販する可能性があると述べている。
AWSのデータセンター事業については、2025年は3.9GWの増設を行ったと述べている。電力が調達できればもっと増やせたと考えているようで、2027年末には倍の電力容量まで伸ばす計画だと述べている。一方で供給能力の制約もあるようで難しい局面が続くと見られる。現在、AWSが支えている会社は、世界全体で9万社にのぼっているが、世界のIT支出の85%は依然としてオンプレに向けられており、膨大な商機があると見ているようだ。AI関連の2026年度の投資予算額が2,000億ドルとなっているが、OpenAIへの1000億ドル以上の契約をはじめ、未公表の多数の契約が進行中であると述べた。2027年から2028年にかけて収益化する見込みとのこと。
ここからはAWSのプロジェクト・フーディーニ(Houdini)の話題。データセンター増設のネックとなっている要因のひとつは、建設速度そのものということで、AWSではいわゆるプレハブ工法を立ち上げているようだ。データセンター内のデータホール内に、サーバールームを構成する電源ユニットやラックを固定する架台(Skid)を、前もって組み立てておいて搬入するらしい。現状はスティックビルド方式で、部材を持ち込んで現地で組上げる方式だが、プレハブ方式ではある程度の単位を前もって組上げておいてトレーラーで運搬し、現地で連結するとのこと。これによって、建屋が完成した後からサーバーの設置まで15週間かかっていた作業が3週間程度に短縮されるようだ。
聞けば簡単に思えるかもしれないが、この方式変更によって、移動する物体の荷重が桁違いに増える。配送拠点からの運搬や、建屋への搬入方法も大がかりになるし、設置先の床の強度だけではなく搬入経路の床部分の強度などをきちんと調査して、必要であれば補強するなどしておかないと大事故につながってしまうだろう。プロジェクト名のフーディーニというのは有名な脱獄マジシャンの名前だそうだ。搬入する架台が脱獄する牢屋の鉄格子のような見た目なのかもしれないと思ったのと、脱獄マジックは間に合わないと燃えたり爆発とかするので、時間と手順を綿密に決めておく必要があるということを暗示しているのかもしれないと思った。ちなみに、日本の脱獄マジシャンというと引田天功が有名である。
プロジェクト・フーディーニは8月から立ち上がり、AWSの年間のデータセンター建設ペースが100を超えることも可能になるだろう、と記事は伝えている。もちろん他にも、データセンターの電源の確保や、サーバーの部材やチップ供給の確保など、ネックとなるものはいろいろとある。しかし、AIやデータセンターがインフラ化していく流れの中では、世界的なデータセンターの建設ラッシュは、しばらく続くと見られる。
AnthropicがAI半導体を開発するという記事が出ていた。先日、BroadcomとGoogleとAnthropicで、GoogleのTPUを使う方向で提携していたと思うが、自社開発もしたいのだろうか。人員や部署ができたとかの具体性はまだないとのことで、実現性は未知数だと思われる。他のAIサービスプロバイダーでも、MetaがMTIAを自社開発しており、OpenAIも自社開発に乗り出しているとのことで、NVIDIA一強体制が徐々に揺らぎつつあるのではないかと記事は伝えている。NVIDIAのジェンスン・フアンは、NVIDIAの強みはGPUハードウェアと、その周辺を繋ぐCUDAのエコシステムにあるとしており、AI向けカスタムASIC開発そのものは脅威ではないと言っているようだ。また、現状ではNVIDIAがTSMCのチップ製造とCoWoSパッケージ製造の予約を抑えているので、カスタムASICを開発したところで製造でボリュームを出せるか、懸念が残るところではあると思う。
NVIDIAが出たところで次の話題。先月の下旬に発覚したSupermicroの元社員によるNVIDIA製GPUの中国への密輸出について、中国国内側の状況を伝える記事が出ているようだ。GPUサーバーを入手した中国側の企業は、NVIDIA Cloud Partnerの認定を受けているらしい。この認定を受けている企業は、中国国内で10社にも満たないようだ。どのように入手したかは触れていないが、H200を載せたサーバーを入手するには、米国と中国から承認を得る必要がある。同社からは、合法的に入手したとの声明が出ていると記事は伝えている。中国国内のAIチップとしては、HuaweiがH20の3倍弱の性能を持つシステムをリリースするなど、向上してはいるようだ。しかし、大学や国営機関からの、H200クラスの要望は多いと見られている。
中国つながりで次の話題。Qualcommが中国企業CXMTとカスタムDRAMを開発と報じられている。モバイル向けのカスタムDRAMで、現状のメモリ不足からくる対応策のようだ。DRAMの製造ラインが減ったわけではないが、製造されるDRAMはハイエンド品のHBMに向けられているため、コンシューマ向けのDRAMは不足している。先日もQualcommとMediaTekが4nmベースのSoCを大量キャンセルしたという記事が出ていたが、コンシューマー向けのメモリ供給が確保できれば、SoCもキャンセルしなくて済むと見られる。