そういえば、Appleの創業者のひとり、スティーブ・ウォズニアックが、現在の生成AIについて、まだ不十分で失望していると述べたと伝える記事が出ている。おそらくAppleの創業50周年に合わせたインタビューで、米CNNテレビとFOXニュースで、キャスターの質問に答えた内容と思われる。不十分という内容は、いろいろな情報はくれるが方向性が違うことが多い、味気ない、人間味が無い、という趣旨で、結論としては、本当に完成するには人間として生きる必要がある、と述べているようだ。生成AIというよりも「人工知能」としての完成を期待してのコメントという気もする。
一方で、2・3日前に、NVIDIAのジェンスン・フアンがネット動画番組のロングインタビューで「AGIは、いまもう既に達成されている」と述べた、という記事が出ていた。AIエージェントが社会に進出を始めている状況を考えると、AIが人間に混ざって仕事を始める状況は「汎用的」と言えるかもしれない。その意味では、AGIは達成されていると言ってもいいような気もする。
AIは「フリをする計算機」であると私個人は思っている。教えてと言えば「先生のフリ」をするし、相談すれば「友達のフリ」をするだろうし、画家や小説家のフリもする。事務的な依頼をすれば「担当者のフリ」もする。会社の中ではさまざまな職種に役割があり、そのポジションに対して募集をかけるので、応募してくるのが人かAIかは関係が無くなってくると思う。そういう意味では、すでにAIは職に就けると思う。ただし、見たことのない案件で新しいフローを追加する場合は、コンプライアンスや会計処理などで人間が判断を下すことになる。そういうマネジメントは判断に責任が伴うので、人間の役割になるだろう。(なので、AGIがいくら集まったところでNVIDIAにはならない) 単純に考えると、人間と協働できるという意味では、汎用AI(AGI)と言っても過言ではないと思う。ジェンスン・フアンが言っているのはこういう意味ではないかと想像する。
一方で、友達のフリはどうだろうか。人間でも友達のフリはするので、問題ないだろうか。(この場合はちょっと意味が違う気もするが) 将来的には親のフリをするAIも現れると思うが、どうだろうか。これは人間関係をAIに置換えようとするので、倫理的な問題が付きまとうように思われる。
すこし軽めの話題にレベルを調整することにして、話し相手をしてもらうだけと考えると、AIは人間としての感情の動きをもつ必要があると思う。すると、AIにも個性が求められることになるような気がする。人間は育った環境で個性が磨かれていくのに対して、AIは話し相手に合わせた個性を持つのかもしれない。ただし、エコーチェンバーやバブルフィルターのようなことになると、人間には害悪となる可能性があるので、AIが備えるべき標準的な哲学が求められるだろう。人間界でも生成AIのおかげで、哲学に関心が集まっているらしい。(人間は自問自答するものだ) 話し相手となったAIと人間のあいだに思い出が重ねられていくと、AIがリセットして個性が失われると、人は「AIが死んだ」と表現するようになるかもしれない。そうなると、AIは人間として生きたことになると思う。ウォズニアック氏が言っているのはこういう意味ではないかと思う。
NVIDIAが実現したAIファクトリーは、人間と協働するAIを産んだと思う。一方で、Appleが志向するAIは、死ぬAIなのかもしれない。
次にテラファブの話題。数日前から、イーロンマスクのテラファブ構想について記事が多数出ている。実現性はよくわからないと思ったが、背景を考えるとリアリティはあると思う。テキサス州オースチンに構えるテラファブ構想には二つの半導体工場があり、ひとつは自動運転やヒューマノイド向けAI半導体、もう一つは宇宙AIデータセンター向け半導体となるとのこと。宇宙向けは特別な半導体になるため、専用に開発するつもりのようだ。ちなみに、低軌道衛星(LEOSAT)は地上200km~1,500kmで、ヴァンアレン帯の内側である。放送用静止衛星は地上36,000kmにあり、より多くの放射線にさらされている。おそらく宇宙AIデータセンターは、低軌道高度を考えているのだろう。
宇宙空間は太陽の日射があたるときと、地球の影に入ったときの温度差が激しく、また放射線の密度も地上の比ではないので、半導体には過酷な環境と言える。イーロン・マスクはスターリンクの小型衛星(地上550km付近)を飛ばしているので、放射線の影響データなども持っているのかもしれない。放射線がトランジスタにあたると、一時的に誤動作を起こすことがある。電源を切って入れ直すとエラーが消えるので、ソフトエラーと呼ばれている。ただし動作中に電源の入れ直しはできないので、宇宙・航空用途では二重化や三重化が必要となる。
イーロン・マスクが、テラファブが必要だと言う理由は、世界全体の半導体の供給能力にあるようだ。TSMC、サムスン、マイクロンなどのファブによる供給が限界にきているため、自分でファブを建設するということらしい。現在全世界で生産している半導体の計算能力は年間20GWと見ており、テラファブは、まず年間100~200GW、最終的に1TWの計算能力の生産を目指すという。その80%(800GW)が宇宙向け、20%が地上の自動運転やヒューマノイド向けらしい。データセンターは、すべて宇宙にある前提と思われる。
記事によると、アナリストの資産として、1TWの計算能力を生産するには、月産700万枚から1800万枚のウェハを生産する必要があり、月産5万枚と仮定すると新たな半導体工場が140から360ほど必要になるらしい。ウェハだけではなく、パッケージング工場も当然必要になるし、関連するメモリやICなどの半導体も必要になる。おそらく、現在のファブの供給能力が単純に限界に達したというのではなく、いま現在の半導体各社の拡張計画や増設の予定よりも、伸びてゆく需要の方がずっと上回り続て「永遠の順番待ち」が発生すると見て、イーロン・マスク自身でファブを作ることにしたのではないかと思われる。こういう状況だと、思い立ったが吉日で、早く始めた分だけ損失は少ないということになると思う。
もしこの先も計算能力がずっと不足を続けるとしたら、半導体の価格と半導体を用いる製品は高額にならざるを得ないだろう。2003年にデジタルデバイドという言葉が生まれ、インターネット人口が増えてゆく中でIoT社会が到来し、スマホが普及して、自動運転になり、データセンターが建設されて、いまやAIが社会を変えつつある。ベースには常に半導体があり、多くの半導体各社が社会を支えてきた。すでにAIやデータセンターの国家主権がキーワードになっており、ここで半導体が高騰すると、国単位で第二のデジタルデバイドが起きるのではないかという気がしている。AIやデータセンター、HPCを持っている国と持っていない国では、ますます格差が開くのではないだろうか。
今回のテラファブ構想では、イーロン・マスクは銀河文明の幕開けと言っていたようだが、1月の下旬に開催されたダボス会議での発言を聴いていると、太陽系をひとつのエネルギーシステムととらえていると思われる。人類全体が巨大なエネルギーと計算リソースを必要とする現実に対して、石油を堀り出して燃やしたり、原子力でお湯を沸かして電気にしているのは非常に不自然な話ととらえているのではないかと思う。宇宙や自然は、全体が低コスト・低ポテンシャルに収まっていくようにできている。その流れの中に計算機を置くとしたら、宇宙空間が最適だということなのかもしれない。災害はともかく戦争でデータセンターが狙われるリスクも減るに違いない。テラファブ構想は株価対策や補助金集めではないかという声もあるようだが、個人的には期待したいと思う。
最後にホワイトハウス関連。PCASTの委員に、米国AI関連企業のトップが招聘されたようだ。PCASTは大統領科学技術諮問委員会(President’s
Council of Advisors on Science and
Technologyの頭文字)で、アメリカ大統領に科学技術に関する政策課題と解決策の方針を助言する機関である。かなり古くからあるが、
今の形になったのは2001年のブッシュ大統領のころからのようだ。私が知ったのはオバマ大統領このころだったと思うが、隔月くらいで会合が開かれ、資料や動画が公開されていた。科学技術に関する議題が中心だが、ITだけでなく教育・健康・都市生活・宇宙開発など個人から社会まで全般を扱う。自然科学ならNSF(National
Science Foundation)の方だが、工学は社会課題と絡むので、PCASTの方が課題が明確で面白い。
トランプ大統領の1期目のときにはPCASTそのものが途切れたようで、DOE(エネルギー省)の隅に追いやられた感じだったが、バイデン政権で大統領令が出て復活し、第2期トランプ政権ではEO(Executive
Order)
14177が発せられて継続はしたようである。活動内容はよくわからない。今回メンバーが追加されたようで、NVIDIAのジェンスン・フアンやオラクルのラリー・エリソン、Googleのサーゲイ・ブリン、metaのマーク・ザッカーバーグ、AMDのリサ・スーなどが任命されている。リサ・スーはバイデン政権のときにもPCASTの委員になっていたと思う。
最近はPCASTの動きを追っていなかったが、いくつかドキュメントが出ているようなので、また追ってみたいと考えている。