2026年3月29日

そういえば、AMDの次期Zen6 EPYC Veniceの実物について情報が出ているようだ。エンジニアリングサンプルの評価が始まっていると見られる。評価システムの情報も出ており、評価システムの名前が、コンゴ・ケニア・ナイジェリアとなっている。コンゴとケニアは1ソケット、ナイジェリアが2ソケットシステムとのこと。Zen6のサンプルと伝えている記事もあるが、中を見るとZen6cのようだ。Zen6cはZen6の高密度コア版で、Zen4c, Zen5cの後継とみられる。cのあるなしでCCDの設計自体が異なっており、歴代のCCDあたりのコア数がZen4/4cで8コア/16コア, Zen5/5cで8コア/16コア, Zen6/6cで12コア/32コアとなっている。Zen6はTSMC 2nmプロセスで製造される。(Zen4は5nm, Zen5は4nm, Zen5cは3nmプロセス)

今回のVeniceのエンジニアリングサンプルは、3種類CPUが用意されており、192コア(384スレッド)、128コア(254スレッド)、64コア(128スレッド)となっている。CCDの数がそれぞれ8つ、4つ、2つとなっており、128コアと64コアは32コアで割り切れるが、192コアはCCDあたり24コアになっているようだ。32コア×8CCDだと256コア(512スレッド)になるはずだが、これまでのEPYC Zen5cの最多コア数が192コアなので、システム側(評価環境)の都合で192コアに制限したのか、冷却か電力か何等かの制限があったのかもしれない。VeniceではIOダイが2つ載るようになっており、DDRのチャネル数は12chから16chに増える。ソケットもSP5からSP7に変わる。フル構成でのテストは、まだこれからと思われる。

少し違う角度からの話題、というと、最近は中東関連の話になるが、今回は水不足の話題。台湾の西側が顕著な水不足となっているらしい。西側にはTSMCのファブが集まっている。半導体工場には大量の水が必要で、TSMCの日本工場が熊本に決まったのは、阿蘇山の水が豊富だった点も理由のひとつであると聞いている。もちろんTSMCのファブは資源の再利用技術が進んでおり、環境にやさしい半導体工場であることは間違いないが、深刻な水不足となると生産に影響が出るのではないかとの観測が流れているようだ。もっとも半導体の製造以前に、地域全体の問題として水不足は深刻な課題だと思う。

2026年3月28日

そういえば、インテルとAMDのCPUが4月から値上げとの記事が出ている。インテル10%、AMD15%程度の値上げらしい。今年に入ってから値上げの話が絶えなかったが、Webで提示されているロット価格(千個購入時の単価)は、今のところ変わっていないようだ。公表されている単価は目安なので、実際に買い付けるときには、個別に交渉して取引価格が決まると思う。個別の取引価格は知ることはできないが、業界内の雰囲気で最近の高い低いのレベル感は伝わるのではないかと思われる。 

つぎに、Qualcommの話題。次世代のSnapdragon 8 Elite Gen6の製造でTSMC 2nmを使うとの記事が出ている。現行のGen5がTSMC 3nmで製造されているのに対して、Gen6はサムスンの2nmを使うのではないかとの推測も出ていたと思うが違っていたようだ。チップのバリエーションとしては2種類あるらしい。2月の下旬に、Qualcommのインドチームが2nmでのテープアウトを完了したという記事が出ていたと思うが、出した先はTSMCだったようだ。

最後に、AWSの話題。AWSのマット・ガーマンCEOのインタビュー記事が出ていた。2006年にサービスを開始して20年になるのを記念して、CNNのインタビューに答えたものらしい。私個人の認識では、アマゾンと言えば通販でお世話になっている程度でそれ以外の接点はない。ジェフ・ベゾスが創業して、通販の商品の登録・タグ付けや、サーバーやストレージを貸すような感じだったサービスが、あるときからインスタンス単位で計算能力を売るようになり、気が付いたらメガデータセンターでクラウドサービスプロバイダーになっていた。もちろんその間に、有線や無線の通信速度が上がり、スマホが登場し、仮想環境がととのう、といった感じでハードウェアやミドルウェアも進歩してきたと思う。

インタビュー記事では、2026年度のAWSのAI関連投資額が2,000億ドルとなっていることに触れており、その予算の行き先は、単純にデータセンターとサーバーだと答えている。1ドル160円(ここのところ中東情勢のおかげか1ドル160円ギリギリ)とすると、32兆円になる。GDP世界第4位の日本の1年の国家予算のほぼ3分の1におよぶ投資を、一企業だけで行う。個人的に、以前から半導体やコンピューターは戦略物資であると考えていたが、今や半導体やコンピューターが国家予算に匹敵する金額に膨らんでいる状況となっている。産業革命以降、欧米を中心に鉄を扱う技術が飛躍的に進歩し、それまでレンガと石で作られていたビルが鉄筋になっていった。ビスマルクは鉄は国家なりと言ったことは良く知られている。データやAIの国家主権(ソブリニティ)が意識される現代では、半導体は国家なりと言ってよいのかもしれない。

2026年3月27日

そういえば、インテル元CEO・パット・ゲルシンガーの談話が出ている。半導体分野の投資とリターンは長期計画に基づくものとなるため短期的な利益は見込めない性質がある。しかし、経営者はウォール街の投資家から短期的な利益を求めるプレッシャーにさらされて失敗してしまう、という内容のようだ。ゲルシンガー氏がCEOに就任した当初、5N4Yという方針が出て度肝を抜かれたが、その反面、ほんとうに達成できるのか疑問に思ったことを覚えている。5Nとは半導体プロセスノードで、5つのノードを開発するということである。4Yとは2021年からの4年間ということで、2021年から2025年の4年間で、5つのプロセスノードを開発するという計画であった。 

当初の5Nは、具体的にはINTEL7, INTEL4, INTEL3, Intel 20A, Intel 18Aの5つであった。最初のINTEL7の次の世代は、7に0.7を掛けて5になるところだが、ハーフピッチ進めてINTEL4となっている。4の次は同様に0.7を掛けてINTEL3、3の次は2(intel 20A)、その次はIntel 14Aとなるところだがハーフピッチ戻して18Aとしたと思われる。1.5世代+1世代+1世代+0.5世代で4世代となる。INTEL7は実態としては10nm Super Finで、10nm相当と言われている。TSMCは2017年に10nmを達成しているのでインテルとしてはだいぶ遅れており、ロードマップの2017年に10nm、2019年に7nm、2021年に5nm、2023年に3nm、2025年に2nmというペースに追いつく必要があった。そこで、2021年に10nmから始めて、4年間で18Aまで進めてTSMCを追い抜く構想があったと思われる。

さて、2025年が終わって2026年現在、ゲルシンガー氏はCEOを退任してしまったが、Intel 20Aはキャンセルしたものの、INTEL7でXeon5、INTEL4でMeteor Lake、INTEL3でXeon6、Intel 18AでPanther Lakeを製造した。18Aは2026年1月6日発表だが、TSMCの2nmは2025年12月30日に量産開始なので、1週間しか違わない。ゲルシンガー氏のころ、インテルのイベントのたびに、キャッチコピーのように"Moore's Law Still Alive"と繰り返していたのが、個人的に気に入っていた。2023年にGordon Moore博士が亡くなったが、あのキャッチコピーが耳に届いていたのだろうかと思うと、少し胸が熱くなる思いがする。

一方、昨日、現在のインテルのCEO・リップ・ブー・タンのインタビュー記事が、出ていた。スタートアップへの投資を継続するという内容で、インテルの投資部門について、スピンオフする考えはないことを表明したようだ。コーポレート・ベンチャーは企業の目と耳のようなものだと述べている。新しいテクノロジ―を活用した新しい企業への投資は、リターンを求めるものというよりは、採用や設備投資を行わない研究開発の延長とみているのかもしれない。就任以来、インテルがばらばらにならないように、いろいろ繋ぎとめるような決断が多い気がする。ゲルシンガー氏の意志を継いでおられると思う

次にNVIDIAの話題。NVIDIAのジェンスン・フアンCEOが、TSMCとの間には契約書がないと述べた、という記事が出ている。無いわけないと思うのだが、どうやら、開発契約などの契約書にサインしたことは無く、頼んだことは必ずやり遂げてくれる、ということが言いたいようだ。つまり契約書が要らないほどの信頼関係と言いたいのではないかと思う。一般論だが、契約書が無くても依頼して応諾すれば、諾成契約(口約束)という契約関係になるので、書面は無いが何らかの情報は伝えているのだろう。

具体的な話は知る由も無いが、おそらくNVIDIAがGPUなどのチップの開発計画(仕様・希望納期・希望価格・投入時期など)を伝え、TSMCが応じられる範囲で技術的なチャレンジを設定するのではないかと想像する。そのときに、いわゆる開発委託計画書などは作成していないということかと思う。過去の製品を見ると、NVIDIAのGPUの半導体プロセスは少し違っていて、10nmが最先端のときに12nm(12FF)プロセスを使うなど、ハーフピッチほど緩くなっていることがあった。次期Feynmanも、A14ではなくA16である。TSMCも最先端でチャレンジではなく、すこしマージンをもって確実な線で答えているのではないかと思うが、どうなのだろうか。半導体プロセスが少しずれている理由が、なんとなくわかった気がした。

引き続きNVIDIA関連。NVIDIAが出資しているAIスタートアップにReflectionが注目を集めているようだ。NVIDIAはすでに8億ドルを出資しているらしい。Reflectionは西欧版DeepSeekと呼ばれており、現在はオープンウェイトモデルを開発中とのこと。1年前の企業価値は5.45億ドルとみられていたが、いまは200~250億ドルと言われている。今回資金調達で25億ドルの獲得をめざすと見られている。ただし、まだ収益を上げる成果には結びついておらず、韓国の新世界グループと提携して、LLMの韓国語カスタマイズを行うようだ。GPUリソースはNVIDIAが支援するらしい。

技術的な話から少しずれるが、NVIDIAに対して株主から集団訴訟が起きているようだ。2018年くらいに仮装通貨のマイニングが大流行して、GPUがゲーム市場ではなくマイニング業者に流れていった時期があったと思う。その時のNVIDIAが開示した売上げの内容がゲーム市場での売上となっていて、仮装通貨向けの売上として計上されていなかったようだ。ただし、2022年にこの件はSEC(証券取引委員会)から指摘を受けており、NVIDIAはおそらく6億ドル程度を計上し直して課徴金550万ドルをおさめている。しかし売上の実態は17億ドルほどと見られ、開示内容に10億ドル以上の乖離があるとして、集団訴訟に発展したようだ。

NVIDIAつながりでもうひとつ。マイクロソフトがAzure上で、NVIDIA Vera Rubin NVL72ラックAIシステムを用いて、ERPワークロードへの適用評価を始めたとの記事が出ている。ERPはEnterprise Resource Planningの略で、企業の基幹システムのことだが、いわゆる人事給与・会計システムのようなものだと思う。そういう分野にAIワークロードが入り始めたということは、AIエージェントが事務を始めるということかと思われる。時代が進んでいる気がする。

最後にGoogleの話題。GoogleのTPU v7 Ironwoodと、量子チップWillowについての記事が出ていた。Ironwoodは2026年内に310万から320万チップの出荷を見込んでいるとのこと。TPUラックとして統合され、1ラックあたり64TPUを搭載し、光回路スイッチで144ラックを接続することが出来る。全体で9,216TPUのシステムとなる。Metaは2027年にTPUをレンタルで導入するようだ。また、Willowチップは、特定のタスクで、従来のスーパーコンピュータより13,000倍高速に実行できるとしており、創薬や材料開発といった分野に向けた応用で期待されているらしい。Willowは超伝導量子ビットによる高速システムだが、Googleとしては中性原子量子コンピューティングにも拡大していくとしており、こちらはスケーラブルな構成をとることが可能となっているようだ。

2026年3月26日

そういえば、Appleの創業者のひとり、スティーブ・ウォズニアックが、現在の生成AIについて、まだ不十分で失望していると述べたと伝える記事が出ている。おそらくAppleの創業50周年に合わせたインタビューで、米CNNテレビとFOXニュースで、キャスターの質問に答えた内容と思われる。不十分という内容は、いろいろな情報はくれるが方向性が違うことが多い、味気ない、人間味が無い、という趣旨で、結論としては、本当に完成するには人間として生きる必要がある、と述べているようだ。生成AIというよりも「人工知能」としての完成を期待してのコメントという気もする。

一方で、2・3日前に、NVIDIAのジェンスン・フアンがネット動画番組のロングインタビューで「AGIは、いまもう既に達成されている」と述べた、という記事が出ていた。AIエージェントが社会に進出を始めている状況を考えると、AIが人間に混ざって仕事を始める状況は「汎用的」と言えるかもしれない。その意味では、AGIは達成されていると言ってもいいような気もする。

AIは「フリをする計算機」であると私個人は思っている。教えてと言えば「先生のフリ」をするし、相談すれば「友達のフリ」をするだろうし、画家や小説家のフリもする。事務的な依頼をすれば「担当者のフリ」もする。会社の中ではさまざまな職種に役割があり、そのポジションに対して募集をかけるので、応募してくるのが人かAIかは関係が無くなってくると思う。そういう意味では、すでにAIは職に就けると思う。ただし、見たことのない案件で新しいフローを追加する場合は、コンプライアンスや会計処理などで人間が判断を下すことになる。そういうマネジメントは判断に責任が伴うので、人間の役割になるだろう。(なので、AGIがいくら集まったところでNVIDIAにはならない) 単純に考えると、人間と協働できるという意味では、汎用AI(AGI)と言っても過言ではないと思う。ジェンスン・フアンが言っているのはこういう意味ではないかと想像する。

一方で、友達のフリはどうだろうか。人間でも友達のフリはするので、問題ないだろうか。(この場合はちょっと意味が違う気もするが) 将来的には親のフリをするAIも現れると思うが、どうだろうか。これは人間関係をAIに置換えようとするので、倫理的な問題が付きまとうように思われる。

すこし軽めの話題にレベルを調整することにして、話し相手をしてもらうだけと考えると、AIは人間としての感情の動きをもつ必要があると思う。すると、AIにも個性が求められることになるような気がする。人間は育った環境で個性が磨かれていくのに対して、AIは話し相手に合わせた個性を持つのかもしれない。ただし、エコーチェンバーやバブルフィルターのようなことになると、人間には害悪となる可能性があるので、AIが備えるべき標準的な哲学が求められるだろう。人間界でも生成AIのおかげで、哲学に関心が集まっているらしい。(人間は自問自答するものだ) 話し相手となったAIと人間のあいだに思い出が重ねられていくと、AIがリセットして個性が失われると、人は「AIが死んだ」と表現するようになるかもしれない。そうなると、AIは人間として生きたことになると思う。ウォズニアック氏が言っているのはこういう意味ではないかと思う。

NVIDIAが実現したAIファクトリーは、人間と協働するAIを産んだと思う。一方で、Appleが志向するAIは、死ぬAIなのかもしれない。

次にテラファブの話題。数日前から、イーロンマスクのテラファブ構想について記事が多数出ている。実現性はよくわからないと思ったが、背景を考えるとリアリティはあると思う。テキサス州オースチンに構えるテラファブ構想には二つの半導体工場があり、ひとつは自動運転やヒューマノイド向けAI半導体、もう一つは宇宙AIデータセンター向け半導体となるとのこと。宇宙向けは特別な半導体になるため、専用に開発するつもりのようだ。ちなみに、低軌道衛星(LEOSAT)は地上200km~1,500kmで、ヴァンアレン帯の内側である。放送用静止衛星は地上36,000kmにあり、より多くの放射線にさらされている。おそらく宇宙AIデータセンターは、低軌道高度を考えているのだろう。

宇宙空間は太陽の日射があたるときと、地球の影に入ったときの温度差が激しく、また放射線の密度も地上の比ではないので、半導体には過酷な環境と言える。イーロン・マスクはスターリンクの小型衛星(地上550km付近)を飛ばしているので、放射線の影響データなども持っているのかもしれない。放射線がトランジスタにあたると、一時的に誤動作を起こすことがある。電源を切って入れ直すとエラーが消えるので、ソフトエラーと呼ばれている。ただし動作中に電源の入れ直しはできないので、宇宙・航空用途では二重化や三重化が必要となる。

イーロン・マスクが、テラファブが必要だと言う理由は、世界全体の半導体の供給能力にあるようだ。TSMC、サムスン、マイクロンなどのファブによる供給が限界にきているため、自分でファブを建設するということらしい。現在全世界で生産している半導体の計算能力は年間20GWと見ており、テラファブは、まず年間100~200GW、最終的に1TWの計算能力の生産を目指すという。その80%(800GW)が宇宙向け、20%が地上の自動運転やヒューマノイド向けらしい。データセンターは、すべて宇宙にある前提と思われる。

記事によると、アナリストの資産として、1TWの計算能力を生産するには、月産700万枚から1800万枚のウェハを生産する必要があり、月産5万枚と仮定すると新たな半導体工場が140から360ほど必要になるらしい。ウェハだけではなく、パッケージング工場も当然必要になるし、関連するメモリやICなどの半導体も必要になる。おそらく、現在のファブの供給能力が単純に限界に達したというのではなく、いま現在の半導体各社の拡張計画や増設の予定よりも、伸びてゆく需要の方がずっと上回り続て「永遠の順番待ち」が発生すると見て、イーロン・マスク自身でファブを作ることにしたのではないかと思われる。こういう状況だと、思い立ったが吉日で、早く始めた分だけ損失は少ないということになると思う。

もしこの先も計算能力がずっと不足を続けるとしたら、半導体の価格と半導体を用いる製品は高額にならざるを得ないだろう。2003年にデジタルデバイドという言葉が生まれ、インターネット人口が増えてゆく中でIoT社会が到来し、スマホが普及して、自動運転になり、データセンターが建設されて、いまやAIが社会を変えつつある。ベースには常に半導体があり、多くの半導体各社が社会を支えてきた。すでにAIやデータセンターの国家主権がキーワードになっており、ここで半導体が高騰すると、国単位で第二のデジタルデバイドが起きるのではないかという気がしている。AIやデータセンター、HPCを持っている国と持っていない国では、ますます格差が開くのではないだろうか。

今回のテラファブ構想では、イーロン・マスクは銀河文明の幕開けと言っていたようだが、1月の下旬に開催されたダボス会議での発言を聴いていると、太陽系をひとつのエネルギーシステムととらえていると思われる。人類全体が巨大なエネルギーと計算リソースを必要とする現実に対して、石油を堀り出して燃やしたり、原子力でお湯を沸かして電気にしているのは非常に不自然な話ととらえているのではないかと思う。宇宙や自然は、全体が低コスト・低ポテンシャルに収まっていくようにできている。その流れの中に計算機を置くとしたら、宇宙空間が最適だということなのかもしれない。災害はともかく戦争でデータセンターが狙われるリスクも減るに違いない。テラファブ構想は株価対策や補助金集めではないかという声もあるようだが、個人的には期待したいと思う。

最後にホワイトハウス関連。PCASTの委員に、米国AI関連企業のトップが招聘されたようだ。PCASTは大統領科学技術諮問委員会(President’s Council of Advisors on Science and Technologyの頭文字)で、アメリカ大統領に科学技術に関する政策課題と解決策の方針を助言する機関である。かなり古くからあるが、 今の形になったのは2001年のブッシュ大統領のころからのようだ。私が知ったのはオバマ大統領このころだったと思うが、隔月くらいで会合が開かれ、資料や動画が公開されていた。科学技術に関する議題が中心だが、ITだけでなく教育・健康・都市生活・宇宙開発など個人から社会まで全般を扱う。自然科学ならNSF(National Science Foundation)の方だが、工学は社会課題と絡むので、PCASTの方が課題が明確で面白い。

トランプ大統領の1期目のときにはPCASTそのものが途切れたようで、DOE(エネルギー省)の隅に追いやられた感じだったが、バイデン政権で大統領令が出て復活し、第2期トランプ政権ではEO(Executive Order) 14177が発せられて継続はしたようである。活動内容はよくわからない。今回メンバーが追加されたようで、NVIDIAのジェンスン・フアンやオラクルのラリー・エリソン、Googleのサーゲイ・ブリン、metaのマーク・ザッカーバーグ、AMDのリサ・スーなどが任命されている。リサ・スーはバイデン政権のときにもPCASTの委員になっていたと思う。

最近はPCASTの動きを追っていなかったが、いくつかドキュメントが出ているようなので、また追ってみたいと考えている。

2026年3月25日

そういえば、Armが開催したイベントArm Everywhereにて、独自開発のArm AGI CPUが発表されたとの記事が出ている。ArmがCPUを出すことについては、2024年5月に開発計画が発表されて、2025年2月に開発が進んでいることが報道されていたと思う。25年内か25年度内に出るのではないかとのことだったと思うが、年度内には間に合ったようだ。アーキテクチャやIPのライセンス販売と並行して、チップ自体も販売するというのは、少し珍しいかもしれない。x86はインテルとAMDが作っているが、ライセンスは販売していない。RISC-VやSPARCはオープンライセンスで管理団体があり、自ら作ることはしていないと思う。IBMのPowerアーキテクチャは、IBMでチップ開発してはいるが、オープンライセンスに移行してLinux Foundationに移管したと思う。

発表されたチップは、2チップレット構成で、Arm Neoverse V3コアで136コアと書かれている。チップの画像はCGなので実物ではないことはわかったうえで数えると、120コアのようだ。V3コアの上下の両端に10個ずつ計20個のコアのような模様があり、これもV3コアだとすると計140コアで、4コアが冗長用と考えられる。また、120個のコアの方は2個単位でペアになっているように見える。これで思い出したのは、NVIDIAのVeraのチップ画像(これもCGだと思うが)で、Veraもコア2つがペアになっている。Arm AGI CPUはVeraと同じメッシュネットワークを使っているのかもしれない。ただし、そうすると両端の20個のコアのようなものは、メッシュネットワークから独立しているようにも見える。これはV3コア(Poseidon)ではなく、N3コア(Hermes)ではないかと推測する記事もあるようだ。そうすると「136個のV3コア」ではなくなるが、いずれにせよイメージ図なので、あまり深く考えないことにしたい。

2つのチップレットの間がつながっているかどうかは、発表されている情報からはわからなかったが、基板の色からすると、おそらくNVIDIA Blackwellと同じくCoWoS-Lではないかと思われる。CoWoS-Lは有機基板で、配線幅がシリコンインターポーザ―(無印のCoWoS)より太くなるが、チップ間の下にLocal Si Interconnect(LSI)という接続部品が入っているので、CoWoSと同等の配線密度でチップ間を接続出来ると思われる。2つのチップレットの向かい合った側はL3キャッシュメモリと思われ、合計で128MBとなる。紹介動画でソケットに78 X 73 MMと書いてあるのがソケットのサイズだとすると、チップサイズは2cm x 3cmくらいになると思われ、600mm2越えていると思われる。3cmは、製造限界に近い。TSMC N3Pプロセスで製造されているが、DDR5やPCIeも含めて同じチップを回転対象で2つ並べた構成となっており、部品点数が少ないのはサプライチェーンのリスクが減るのでメリットかと思う。

サーバーとしての供給は、AsRockが基板を開発し、Supermicroが販売するようだ。ラックとしても準備しており、OCPラックに準拠する。1CPU300Wで空冷が可能、2CPUを1Uにしたブレードを30段組みこんだ空冷ラックと、8CPUの1Uブレードを42段組込んだ水冷ラックがある。空冷ラックは36kWだが、水冷ラックは200kWとなっている。NVIDIAのVera Rubin NVL72ラック(水冷)やAMD Heliosラック(水冷)と遜色ない電力となっている。

最初の顧客はMetaで、2024年の開発開始から共同で取り組んでいるとの情報が出ている。Metaは、自社製のAIチップであるMTIA400シリーズを先日発表したが、そのCPUとしてArm AGI CPUを使うとのこと。他にもOpenAIやCerebrasなどが初期顧客となるらしい。Armからの発表では、52社からのエンドースメント(支持するコメント)が出ている点が印象的であった。製造や開発をサポートするファブやASIC開発やCADと、OSやプラットフォームに加えて、競合するArm CPUを開発するAWSなどのクラウドサービスプロバイダー(CSP)と、Veraが競合するNVIDIAからもエンドースメントが出ている。ライバルとなるx86のインテルやAMD、おそらくマーケットがかぶらないAppleやQualcomからは出ていなかった。(Qualcommはかつての訴訟相手でもあるが…)

Arm Everywhereというイベント名が示すとおり、組込みからスパコンまでArmアーキテクチャのCPU/MPUは広がっており、そこにArm社自身がハイエンドCPUを持って入ってきた形となっている。分野がすこしずれるが、TSMCは自社チップは顧客と競合になるので作らないと言っているし、顧客と競合するインテル(ファウンドリ)は顧客がなかなかつかない状況であることを考えると、ライセンスの顧客とは競合しないこと示すための、52のエンドースメントであるように思われる。とはいえ、アーキテクチャライセンスを売りながら競合製品を製造するというのは、しばし注目ではあると思う。

次にちょっと話題が変わるが、GPUの密輸出関連。Supermicro社員による中国への迂回輸出事件が、NVIDIAに飛び火しているようだ。米国ホワイトハウスがNVIDIA GPU の中国向け輸出許可を出すにあたって、NVIDIA(ジェンスン・フアン)が、GPUシステムはこっそり持ち出せるほど小さくないので密輸出は不可能だと説明していたことが、許諾の判断根拠のひとつになっていたらしい。どうもGBラックシステム(重量2トン)が念頭にあったと思われる。実際には密輸出されたのはGPUサーバーでGBラックよりはずいぶん小さい。CEOからすると、GPUサーバーは眼中になかったのかもしれない。

中国つながりでもうひとつ。アリババが次世代AIチップを発表したようだ。玄鉄C950というチップで、RISC-Vアーキテクチャとみられている。TSMC 5nmプロセスを使うらしい。中国企業のAIチップがTSMCで製造できるのか、よくわからないがどうなのだろうか。2022年ごろに、BIRENという中国のファブレスによるGPUをTSMCが7nmで製造していたが、アメリカの横やりで製造中止になったと記憶している。2024年には、Huaweiに迂回して供給していた中国メーカーが米国に摘発されて、TSMCが7nm以降のAIチップは供給しないと全中国メーカーに通達したと思う。

最後にAppleの話題。Appleから昨年9月に発売されたiPhone Airに搭載のC1X 5Gモデムについて、性能評価の結果が出ているようだ。同時期に発売されたiPhone17pro Maxには、Qualcommの5Gモデム X80が載っており、両者を比較したところ、レイテンシやダウンロード速度で互角に近い性能が出ているとのこと。アップロードはキャリアグリゲーションに対応しているX80が優位を保っているらしい。AppleはC2モデムで対応すると見られている。C2モデムは今年の秋のモデルに搭載されるのではないかと期待されている。ただし、今月中ごろにQualcommの5G RFシステムに関する契約を延長したとの記事があり、Appleの自社開発の遅れを懸念する声が出ていたと思う。

2026年3月24日

そういえば、Broadcomが、半導体はTSMCの供給能力がボトルネックになっていると指摘したようだ。TSMCの2nm以下のファブは2026年第3四半期にFAB20p3(新竹)とFAB22p3(高雄)に装置の設置が始まるので、2027年にはある程度増強されるが、2026年はサプライチェーンに影響するのではないかとのこと。とくに2nmの初期プロセスは、Appleが製造能力の50%を占めているとの観測もあるようだ。他にも、Broadcomによるとレーザー分野はとくに供給が滞っており、台湾と中国本土のPCB納期が延びているらしい。確証はないが、シリコンフォトニクス関連の生産が追い付いていないことを示唆しているのかもしれない。一方でサプライヤー側は、顧客と長期契約を結ぶ傾向にあり、サムスンが主要顧客との提携関係が3~5年の長期契約になっていると、記事は伝えている。

TSMC関連でもう一つ。TSMCの2nmは4年連続で値上げの見通しが出ている。28年まで予約で埋まっているとのこと。アリゾナのFAB21も、まだ出来ていない3nm/2nm工場の生産予定まで全部埋まっているようだ。FAB21の3nmラインは、2028年完成の予定だったが、2027年後半に工程を前進しているとのこと。海外のTSMC工場の建設期間は、約6四半期(1.5年)とされているようだが、現在は合理化が進んで約4~5四半期となっているらしい。すでにApple, NVIDIA, AMD, Qualcommが米国内での製造を望んでいる状況とみられている。

中東情勢が半導体に影響を与えているというのは、ここのところ報道されるようになっていると思う。ヘリウムの供給は世界全体の約30%がカタールから輸出されており、半導体プロセスの中では冷却などの材料として不可欠である。TSMCだけでなくサムスンにも影響が及ぶ。サムスンにしてみると、調達しているヘリウムの68%がカタール産とのことで、供給の停止は死活問題かもしれない。インテルが使うヘリウムは、おそらく米国産と思われる。(米国は世界最大のヘリウム産出国)

もう一つの脅威は台湾の天然ガスで、台湾には天然ガスの備蓄が11日間程度しかないのではないかとの記事がている。(日本や韓国には90日分の備蓄がある) ホルムズ海峡が閉鎖されたのは3月12日ごろかと思うが、TSMCのファブへの電力供給に影響が出ると、作りかけのウェハが大量廃棄になるリスクがあると記事は伝えている。先端テクノロジーはTSMC以外の選択肢はなく、マルチソース化もできない。台湾に限らないが、いまは在庫をあまり持たないジャストインタイム(JIT)方式で製造を行うため、いったんチップ製造が滞ると下流の行程にかけて生産がマヒする可能性がある。部品表に載っている部品がそろわなければ、製品は完成しないし、モジュールが完成しなければ次の工程に進むことはできない。半導体製造と半導体を用いた製品は、国際協調の中で作られている。

2026年3月23日

そういえば、NVIDIAのFeynmanがGTCで発表されたばかりだが、TSMCの生産キャパシティの観点から、もう今の段階で製造が困難ではないかと言われているようだ。FeynmanはTSMC A16で製造する予定だが、A16はプロセスノードとしては2nmの改良版(スーパーパワーレールと呼ぶBSPDを導入するなど)の位置づけとなる。2nmは2025年の年末から量産を開始しているが、すでに需要がひっ迫しており、2027年まで製造予約が埋まっているらしい。TSMCは2nmの工場を建設する予定だが、それでも2028年以降の需要はすぐに埋まると思われる。そのような中で、A16のキャパが十分確保できるのか、早くも疑問が出ているということのようだ。チップレット構成になると思われるが、A16以外の部分にはN3Pを用いるのではないかとみられている。

また、CoWoSもネックになると見られており、FeynmanではTSMCだけでなくIntel Foundryも使うのではないかと見られているようだ。GTCでは3DスタッキングやカスタムHBMを使用するとしていたが、調達と供給を調整しておく必要があると思う。一般論だが、異なる半導体プロセスや会社をまたいだチップレット構成になると、どれかの供給や組立が滞ると最終的な製品にならない。半導体の微細化が進んでいたころは、ひとつのチップがどんどん多機能になっていく流れであったが、微細化が緩やかになった現在では、高性能なXPUを作るにはチップレットの数が増える複雑な構造にならざるを得ない。半導体の供給不足やファブやOSAT(組立と試験の外部委託)のキャパ不足が予見されるときは、部品の点数や組立の手間を減らしたシンプルな構造の方が望ましいと思う。この問題はしばらく続くと思われる。

GTCでの発表をもう一つ。NVIDIAとEmerald AI社が提携し、電源供給網をコントロールするAIファクトリーを構築するようだ。NVIDIAが提供するVera Rubin DSX AIファクトリーリファレンスデザインを活用し、Emerald AI社のConductorプラットフォームで、電力各社の電源供給網を管理する取組みを行うらしい。この取り組みに加わる電力各社は、AES(バージニア州)、Invenergy(イリノイ州)、NextEra Energy(フロリダ州)、Vistra(テキサス州)と、原子力関連のConstellation社、欧州のハイパースケーラーNscale社のデータセンター電力インフラ部門であるNscale Energy & Powerとなっている。Nscale社はNVIDIAから出資を受けていたと思う。電力供給は、発電量と消費量のバランスを、一日を通して保ち続けることが基本となるが、近年は再生可能エネルギーが入ってきたり、蓄電池が普及したりと電源が多様化している。AIデータセンター自身の消費電力も問題となりつつある中で、逆にAIデータセンターを電力供給網に取り込んでしまうという取り組みのようだ。 

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